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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)227号 判決 1997年3月13日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告が、原告に対して平成八年二月七日付けでした不動産取得税賦課決定(ただし、平成八年五月二一日付け不動産取得税減額賦課決定により減額された後のもの)を取り消す。

第二  事案の概要等

一  事案の概要及び争点

本件は、遺産分割に際して、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の共有持分を共同相続人から売買により取得する旨の合意をした原告に対して賦課された不動産取得税について、右持分の取得原因は相続であるから、地方税法(以下「法」という。)七三条の七第一号に規定する非課税事由に該当するとして、その取消しを求めるものである。

争点は、右持分の取得原因が相続と売買のいずれであるかにある。

二  事実関係(争いのない事実及び引用証拠によって認められる事実)

1 訴外甲野松太郎は、本件土地を所有していたが、平成五年四月二八日死亡し、相続が開始した。相続人は原告、訴外甲野春子(以下「訴外春子」という。)外三名であった。

2 訴外春子が東京家庭裁判所に申し立てた遺産分割調停事件において、平成六年一一月八日、調停が成立した。

その調停条項(以下「本件調停条項」という。)によれば、訴外春子は本件土地の持分一二五六分の五〇〇(以下「本件持分」という。)を、原告はその余の持分を取得し(2、3項)、訴外春子は本件持分及び件外建物を原告に代金二四〇〇万円で売却し、原告がこれらを買い受け(8項)、右代金の支払及び訴外春子から原告への本件持分及び件外建物の引渡し及び移転登記を平成七年一〇月末日を期限として行うこととする(9ないし11項)ほか、代金の支払方法(相殺)(12項)及び代金に関する遅延損害金の支払義務(13項)が合意されている。

3 原告及び訴外春子は、平成六年一二月七日、平成五年四月二八日相続を原因とする各持分の共有者として所有権移転登記を経由し、原告は、平成七年三月一三日、本件持分につき同日売買を原因として訴外春子からの移転登記を経由した。

4 被告は、平成八年二月七日付けで、右登記簿の記載に従い、原告が平成七年三月一三日に本件持分を取得したものとして、法附則一一条の五第一項により土地価格の三分の二を課税標準額として、不動産取得税額を六八万六六〇〇円とする賦課決定(以下「本件決定」という。)をした。

被告は、平成八年五月二一日付けで、本件調停条項の趣旨に照らして、原告の本件持分取得時期を平成六年一一月八日と認め、法附則一一条の五第一項により土地価格の二分の一を課税標準額として、不動産取得税額を五一万四九〇〇円に減額する旨の決定をした。

5 原告は、同年二月二八日、本件決定に対して審査請求を申し立てた。その後三か月を経過するも、審査請求に対する裁決はされていない。

三  争点に関する当事者の主張の要旨

1 原告

本件調停条項は、関係者の主張を調整するために紆余曲折を経た上、合意に至ったものであり、その実質は、本件土地を原告が相続するものであったが、本件土地を占有している訴外春子の明渡準備期間を約一年間確保する必要があったため、直ちに本件土地の引渡し及び移転登記をすることなく、本件持分を訴外春子に帰属させ、このことによって、本件土地の明渡しまでの固定資産税等を訴外春子に負担させると共に、訴外春子に対して原告から受領すべき代償金の担保方法を与え、本件土地の明渡し及び移転登記と代償金の支払とを同時に履行することによって、本来の権利状態の実現を図ろうとしたものである。また、本件調停条項に照らしても、訴外春子の本件持分の取得、本件持分の原告への売買が遺産分割に関する紛争を解決するための技術的方策として採用されたことは明らかである。したがって、原告の本件持分の取得は訴外春子からの売買によるものではなく、相続を原因とするものである。

2 被告

本件調停条項に照らせば、本件持分を相続した訴外春子から原告がこれを買い受けたことは明らかである。

第三  当裁判所の判断

一  不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実に着目して課せられるものであって、法七三条の二第一項に規定する「不動産の取得」とは、不動産の取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否かには関係なく、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含むものであり、所有権移転の形式により不動産を取得した動機、目的によっても左右されるものではないと解すべきである。また、共有も所有の一形態であるから、不動産の共有持分の取得が「不動産の取得」に含まれることは、明らかである。

二  そこで、本件をみるに、本件調停条項に照らせば、訴外春子が本件持分を相続取得したことを否定することはできず、また、原告が本件持分を本件調停条項における売買を原因として取得したことも否定することはできないのである。

この点につき、原告は、右権利移転の経過は遺産分割紛争を合理的に解決するという目的に出たものであること、分割の実質に従って原告が本件土地の所有権全部を相続取得することとした場合には、代償金(遺産調整金)の交付前に原告への移転登記を経ることにつき訴外春子の同意を得ることは困難であったから、原告の本件土地所有権の取得を認めながら移転登記を一年も猶予するという異例な条項とならざるを得なかった事情にあり、このような条項を回避して関係者間の利害調整を図るためには本件調停条項の方法によるほかなかったものである旨を主張する。

しかし、原告の主張によっても、訴外春子が本件持分を取得することには譲渡担保と同様の経済的利益があったものであり、原告の主張する実質関係に従えば、本件土地の所有権全部を原告が相続により取得し、その上で本件持分を訴外春子に譲渡担保として移転すべきところ、この場合には、右譲渡担保の設定による所有権の移転について訴外春子に対する不動産取得税が発生することになるのであるから(法七三条の七第八号参照)、本件調停条項は、右不動産取得税の発生を回避して、訴外春子に対して所有権移転という方式による担保利益を与えるものであったというほかなく、原告が主張するような事情があったとしても、法的には、訴外春子が、担保の目的であったにせよ、相続により本件持分を取得し、原告が本件調停条項における売買条項の履行として訴外春子から本件持分を取得したことを否定することはできないのである。

三  右によれば、本件持分は平成六年一一月八日に成立した売買契約によって訴外春子から原告へ移転したこととなるから、法七三条の二一第一項、二〇条の四の二第一項及び法附則一一条の五第一項に従い固定資産課税台帳に登録された価格に基づいて算出した一二八七万四〇〇〇円を課税標準額とし、これに法七三条の一五及び二〇条の四の二第三項に従い算出した五一万四九〇〇円が不動産取得税額となるところ、減額賦課決定により更生された本件決定の内容は右と一致するから、本件決定は適法というべきである。

よって、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 竹野下喜彦 裁判官 岡田幸人)

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